« もうすぐお誕生日 | トップページ | »

2006年9月14日 (木)

短歌研究新人賞応募作

短歌研究新人賞で佳作に入選した作品です。

感想など聞かせてください。よろしくおねがいします。

「シー・シンドローム」
                 須藤歩実
 
春の陽を待ちきれなくてまだ奥がしめったシューズに素足をいれる
背中から生まれた吾は海よりも青いものなどないと信じる
父さんと母さんの声鋭くてぼくはシャガールのヴァイオリン弾き
お祈りにならない歌をうたう午後ステンドグラスにささる雨粒
まなうらがゆがんだ枇杷になってゆく母さんの泣き顔がみえない
図書館のように静かな脳内でひらひら薄いページが燃える
母さんは摑もうとする息継ぎがうまくできないクロールの手を
君を待つ日々は小さなつむじ風 コーヒーシュガーが溶かされてゆく
君のぬるい紅茶を飲んだ。喉元に檸檬の味のなんだろうこれ
天窓が風もないのに軋むから君が入ってきたことを知る
明け方の海は昏くて黒髪を君に撫でられそうで怖い
スプーンの束をほどいてしまうからわたしの顔を数えてください
ひとつのこらず手に入れたキイケースいっぱいのキイ 合鍵がない
水底のふたりはしろい月光に背いたふたり 重なりあって
君の手を砂丘になるまで握ったらわたしの砂になるのでしょうか
こころってここにあるんだ君が時計をはめると胸が締め付けられる
この雲は今夜あなたのさみどりの傘をかすかに滲ませる雲
お互いを散らかしたままあとにする場所に未来がみえますか、ばか
また赤いジャムがこぼれる半分に割ったつもりでいたフランスパン
こいびとの息をのこらず吐き出したビーチボールをたたむ指先
あの人の留守電にまだ真っ青な鷗が棲んでいるかもしれない
海岸に砕けてしまった子ども達シルル紀に貝だったわたしの
[sea syndrome]震える指先で箱庭に貝殻を重ねて
浅い眠りにおちてゆく幼子のまぶたのような夢が列なる
黄昏の泡シャンプーのやさしさであなたの雲になりたいのです
まっしろい皿に座ったわたくしは静物 枯れた夢が絡まる
もうだれのせいでもなくてでたらめに折った紙飛行機を飛ばす
トンネルに入ったのぞみの窓にだけわたしは映るひどくちいさく
知らないうちに履いていたあかいくつ踊るからさいごまで踊るから
書き捨てた言葉にレースのカーテンがふくらんでまたしぼんで夜明け

|

« もうすぐお誕生日 | トップページ | »

短歌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« もうすぐお誕生日 | トップページ | »